日本環境変異原学会

放射線リスクWG作成

 

 

コラム

 ここでは、今回の大震災および原子力発電所の事故を受けて、日本環境変異原学会会員からのコメント、情報提供をコラムという形で提供させていただくことにしました。よって、ここに掲載された内容は会員個人の意見に基づくものであり、日本環境変異原学会としての意見ではないことをご了解の上、お読みください。(あわせて、学会員の皆様からの積極的な情報提供をお願いします。)

  • その2  我々はすでに結構被爆していた(内部被爆編) (鈴木孝昌) 
       今回の原発事故を受け、放射線の生体影響に関しては様々な意見が出されているが、これを機会に放射線に関する基礎知識を勉強してみて、改めて驚かされることも多い。 職業柄その程度はどこかで学んでいるべきで、単に私の勉強不足かもしれないが、おそらく一般教育の中で放射線に関する基礎知識をきちんと学ぶ機会が無いことが原因だと考えられる。
       原発事故の影響で、農作物の放射能が暫定基準値(例えばセシウムで500ベクレル/kg)を超えたとか、水道水が基準を上回った等のニュースが盛んに報道されたが、食品は体内に取り込まれて内部被爆という形で影響を与えるので、特に注意が必要である。とここまでは、一般常識として理解できる。ではこの値はいったいどれだけ危ないものなのか、どれだけ気をつけなければいけないかについての正確な情報を得ることは難しい。ゆえに、不安は募る。
       そこで、少し放射線の生体影響について勉強してみようと、ネット上などで情報を集めてみると、これまで知らなかった事実に驚かされた。あまり注目されていないが、自然界に存在するカリウムはその0.0117%が40Kの放射性同位体を含み、我々は農作物等からこれらを摂取している。カリウムは必須元素でもあり、我々の体は40Kを取り込み、体重60kgの成人男子では、約4000ベクレル(Bq)年間の内部被ばく線量は、0.17ミリシーベルト(mSv)となる。安全だと思っていた我々自身も実はすでに結構内部被爆していたわけである。
       カリウム40は、崩壊により約9割がベータ線を残り1割がとガンマ線を放出する。即ち我々の体は、これだけでも一秒間に3600発のベータ線と400発のガンマ線に内部被爆している計算になる。まさに満身創痍の状態であるが、無事に生きている。カリウム40は必然的にすべての動植物由来の食品に含まれ、カリウム含量の高い乾燥昆布で2000Bq/kg、先日問題となったお茶で600Bq/kg程度とされている。現在問題となっている放射性セシウムとカリウム40はどちらもベータ線とガンマ線を放出するので、似たような性質を持つと考えてよいが、セシウムの基準値500Bq/kgに対し、カリウム40の基準値は見当たらない。カリウム40は新たに摂取しても体内にある分と置き換わるだけなので追加リスクはないためであろうが、どこまでリスクを許容できるかを考える上では、指標となりそうである。
       ちなみに、カリウム40の半減期は何と13億年だそうである。
      (参考情報)
    • 環境と放射能データベース
    • カリウム40 Wikipedia