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学会概要

理事・評議員・各種委員会

2025.01.01現在

役員一覧

会長 松田知成
理事 総務担当 濱田修一  
会計担当 竹入 章  
書記担当 伊吹裕子
広報担当 橋爪恒夫  
企画担当 杉山圭一  
国際協力担当 佐々 彰 山田雅巳  
表彰人事担当 本間正充  
編集担当 川西優喜 三島雅之
監事 赤沼三恵 森田 健

企画委員会

委員長 杉山圭一
委員 小山直己 津田雅貴 戸塚ゆ加里
     

第一編集委員会

     
委員長 山田雅巳      
委員 伊吹裕子* 紙谷浩之* 川西優喜* 倉岡 功*
椎崎一宏* 椙村春彦* 高村岳樹* 渡辺雅彦* (*編集幹事)
石井雄二 稲見圭子 大野みずき 岡本誉士典
河井一明 喜納克仁 木本崇文 笹谷めぐみ
鈴木孝昌 竹入 章 羽倉昌志堀端克良
本田大士 本間正充 松田 俊 松田知成
三島雅之

第二編集委員会

委員長 三島雅之      
委員 小牧裕佳子 豊岡達士 堀端克良 武藤重治

表彰人事委員会

委員長 本間正充      
委員 有元佐賀惠 紙谷浩之 河井一明 成見香瑞範
橋本清弘 堀端克良    

広報委員会

委員長 橋爪恒夫      
委員 倉岡 功 須井 哉 千藏さつき
松山良子 和田邦生  

選挙管理委員会

委員長 喜納克仁      
委員 大野みずき 中川宗洋 濱田修一

評議員

     
有元佐賀惠 石井雄二 伊吹裕子 及川伸二 大野みずき 大山ワカ子
岡本誉士典 笠本佐和子紙谷浩之河井一明川西優喜 喜納克仁
木本崇文 倉岡 功 小牧裕佳子 小山直己 笹谷めぐみ 佐々 彰
椎崎一宏 須井 哉 杉山圭一 鈴木孝昌 関本征史 高村岳樹
竹入 章 千藏さつき 津田雅貴 戸塚ゆ加里 豊岡達士 中川宗洋
中島大介 鳴海一成 成見香瑞範 羽倉昌志 橋爪恒夫 橋本清弘
濱田修一 福田隆之 堀端克良 本田大士 本間正充 増田修一
増田雄司 増村健一 松田知成 松山良子 三島雅之 峯川和之
安井 学 山田雅巳 山本美佳 和田邦生 渡辺雅彦
           
          (五十音順)

入会手続きおよび会費のご案内

入会申込について

  1. 入会にあたりましては、下記の入会申込フォームに必要事項をご入力の上、送信してください。入会申込フォームの入力ミス等により不都合が生じましても、本会では責任を負いかねますので、内容を十分ご確認の上、送信くださいますようお願いいたします。会費受領をもって入会申し込みが成立します。
  2. その後,会則第12条に則り理事会・評議員会が入会の可否を正式に決定いたします。
  3. 学会誌は冊子体からオープンアクセスジャーナルへ移行しました。学会誌36巻(冊子体)以前のバックナンバーを希望される際は、有料になります。
  • 注意事項
    1. 入会には正会員の推薦を必要とします。正会員をご存じない場合は、事務局にご相談ください。 ※入会手続き時には入会フォームより、入会推薦書のスキャンデータを添付していただくか、別途ご郵送ください。
    2. 学生会員入会には別途在学証明書を必要とします。翌年の3月31日まで会員として登録されます。 ※入会手続き時には入会フォームより、在学証明書等のデータを添付してください。 ※学生会員は1年更新です。年度末(3月)に更新の有無の連絡をしますので、学生会員を継続する場合は、再度在学証明書をご提示ください。
    3. 事業年度:1月1日~12月31日(学生会員は4月1日~3月31日) 年度末に入会申込をされる場合で、翌年度から入会希望の場合は、その旨お知らせください。
    4. 正会員は入会申込完了後、連絡先メールアドレスに「入会申込フォーム送信内容・入金のご案内」メールが自動送信されます。そちらより初年度年会費の入金手続きをお願いいたします。
    5. フリーメールのご利用や携帯メールの受信設定により自動返信メールが届かない場合があります。お手数ですが、迷惑メールの確認、および「kokuhoken.or.jp」からのメール受信許可等の対応をお願いいたします。正会員は会費受領をもって入会申し込みが成立します。
    6. 入会申込フォームから送信後、1週間以内に「入会申込フォーム送信内容・入金のご案内」メールが受け取れなかった場合は、恐縮ですが、本会事務局までご連絡をお願いいたします。※学生会員には入金の案内は届きません。

    会員種別と年会費

    会員種別 会費 会員専用
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    正会員 ¥10,000*
    学生会員 無料
    賛助会員 ¥50,000(1口) 賛助会員の詳細についてはこちら

    終身会費制度

    日本環境変異原ゲノム学会(日本環境変異原学会)の正会員として長年学会に貢献された方々に,長く会員として留まって学会活動に積極的・継続的に参加していただくために、「終身会費制度」を設けます。
    事業年度開始時点(1月1日)で、満60歳以上の正会員は、終身会費5万円の支払いをもって、申請年度以降の会費納入が免除されます。
    終身会費納入者は、会員名簿にも正会員として掲載し、正会員としての資格、特典については何ら制限を受けることはありません。
    終身会費の金額が将来変更されることもあり得ますが、その際にも既に納入した会員に増額をお願いすることはありません。

    申し込み方法

    1. 申請用紙にご記入の上で、FAX、あるいは封書にてお申込み下さい。(電話での申し込みは、受け付けておりません)。
    2. 資格を確認後、学会事務局から、金額(5万円)と氏名を印字した払込用紙を送付します。
    3. 金額(5万円)を印字した払込用紙により送金して下さい。
    4. 事務局より終身会費受領書を送付します。

    ※注意事項

  • 予め前年度までの会費を完納していただく必要がございます。
  • 過去に支払った年会費を終身会費に充当することはできませんが、制度開始年度である平成29年度に限り、平成29年度会費を一度納入した場合であっても、それを終身会費に充当することを認めます。
  • 【参 考】会則の付則
    6. 会費(年額)は正会員10,000円、学生会員2,000円、賛助会員 50,000円(一口)とする。(削除)終身会費は年度初めに満60歳以上の正会員が支払いを選択することができ、以降の会費納入が免除されるものとする。 12. 付則6については、平成28年11月17日に改訂した。

    学会50年史・学会各賞受賞者一覧

    日本環境変異原ゲノム学会第50回記念大会(2021.11)の記念行事用に作成された、

    学会50年史年表と学会各賞受賞者一覧です。

    学会のロゴについて

    (2003年6月24日Web掲載記事を一部改変)

     2003年5月30日の編集・広報合同委員会において応募されたロゴを審査した結果、石井 裕会員より応募された作品が、グランプリとして選ばれました。それに引き続いて開催された理事会、評議員会において、今後このロゴを日本環境変異原学会のロゴとして使用することが決定されました。
     新しいロゴとロゴの意味するところは以下の通りです。

    グランプリ受賞作品

    1. DNAの二重らせんをデザイン。
    2. DNA上の丸は塩基損傷を、下の一つが離れているのは切断を示す。
    3. DNAが上に行くほど大きくなるのは上昇気流をイメージしたもの。
    4. JEMSの文字の位置は、DNA損傷に果敢に挑んでいる様子を表すように配置。

    2つのデザインのうち、左の方は背景が白地の場合のもの、右の方は表紙が赤・黒などの色地の場合に使用します。


    審査員特別賞受賞作品

     コンセプトが「あらゆるタイプの線量-効果曲線の集合体を青でシンボライズされ、左辺、底辺の白線は目盛りを表すという、非常に変異原学会らしいロゴであることから、「審査員特別賞」となりました。

    学会の歩み

    菊池康基
    元遺伝研、元武田薬品工業株式会社
    (2019年5月 寄稿)

    1. はじめに
    2. 遺伝毒性研究の歴史(1960年代)
    3. 日本環境変異原学会の設立(1972年~) 
    4. 国際化のうねり
    5. おわりに

    1.はじめに

     変異原性あるいは遺伝毒性は、毒性学の中でも1970年以降に確立された新分野の毒性の一つである。
     化学物質の中には、アルキル化剤のように、突然変異を起こすものがあることは、1940年代以前に既に知られていた。しかし、当時は特別な化学物質による特殊な現象として遺伝学者の研究範囲に限られていた。第二次大戦後、原爆の後遺症も含め、放射線の遺伝的影響に関する研究が進むにつれ、化学物質によるヒトへの遺伝的な悪影響についても、次第に懸念されるようになった。
     1960年代に入ると、この問題は化学物質全体についての評価対象にすべきとの考えが強まり、欧米では公的研究機関等で基礎的研究が始まった。1969年に米国では、農薬について変異原性試験(遺伝毒性試験)の実施が提唱され、1970年には医薬品についても同様の勧告が出された。
     このような国際的な動向を受けて、わが国でも学会が設立されることになる。そこで、1960年代後半の遺伝毒性研究の黎明期から、学会が設立されて研究活動が軌道に乗るまでの約20年間の出来事について、書き留めてみる。ただし、当時の資料はほとんど散逸し、記憶頼りのことも多い。重要な事柄の欠落や間違いなどがあれば、ご指摘頂いた上で修正させて頂きたい。

    2.遺伝毒性研究の歴史(1960年代)


    2-1.遺伝子・染色体研究の海外の状況

     1960年代に入ると、ある種の化学薬品やウイルス感染によって、染色体の切断や転座が起こることが、よく知られるようになった。例えば、1967年には強い幻覚作用を持つLSD(リセルギン酸ジエチルアミド)のヒト染色体切断作用が3報続けて報告され、LSDの濫用が問題となっていた米国で大きな問題となった(菊池, 1968)1)
    こうしたことを受け、米国では1969年に農薬について変異原性を評価するために、優性致死試験、宿主経由試験および in vivo 染色体異常試験の3種を実施するよう勧告が出され、1970年には医薬品についても同様の勧告が出された。
     また、1969年には、米国環境変異原学会(Environmental Mutagen Society (EMS)) が、1970年には欧州EMSがそれぞれ設立された。また、米国EMSからは Newsletterが発行されるようになった。
     医薬品の突然変異誘発性に関し、WHO科学グループの技術報告書(1971)は、評価(evaluation)と試験(testing)を区別すると共に、結果の解釈(interpretation)について、特にrisk/benefit assessment を取り上げた、総合的な勧告であった。試験方法については、原則として哺乳動物を用いることとし、特定の方法は示さず暫定的に、優性致死試験、in vivo 細胞遺伝学的試験(染色体異常試験)、宿主経由試験等が示唆されていた。

    2-2.遺伝子・染色体研究の国内の状況

     わが国では、原発被爆国として、放射線の遺伝的影響についての研究が、戦後行われるようになった。このため、微生物、植物、昆虫、哺乳動物培養細胞、あるいはマウスなどを用いた基礎研究が大学等で実施されていたが、あくまでも放射線の研究に限られており、化学物質についての研究は殆んどなされていなかった。
     この状況に転機が訪れたのが1968年である。この年に東京で開催された第12回国際遺伝学会議では、環境化学物質の突然変異誘発性が新しい研究テーマとして話題となった。
      国立遺伝学研究所(遺伝研)の田島彌太郎先生(当時の形質遺伝部長、後の所長)は我が国でも、化学物質の突然変異誘発性について組織的な研究体制構築の必要性を痛感されていた。田島先生は長年にわたる放射線遺伝学の研究から、化学物質の突然変異誘発性に対しても強い危機感を持たれていたからである。遺伝研での私(菊池)の所属は人類遺伝部であったが、田島先生に命じられて、この国際会議の総務委員としてプログラムを担当しており、田島先生からお話を伺うことも多かった。

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    3.日本環境変異原学会の設立(1972年~)

     1970年には田島先生(遺伝研)が文部省特別研究班(通称田島班)を組織され、「化学物質による突然変異誘発性の研究」として、組織的な研究が開始された。この年に私の遺伝研からの転職が決まり、田島先生に「これから武田薬品で変異原性試験に取り組みます」と申し上げたところ、激励して下さり、研究班の会合にも参加させて頂くことになった。そして、この田島班が母体となって、1972年10月に東京虎ノ門の教育会館において、日本環境変異原研究会(Japanese Environmental Mutagen Society, 略称:JEMS、後の本学会)の設立総会が「第1回環境変異原研究会講演会」の名称で開催された。

    <プログラム>
    第1回環境変異原研究会講演会(昭和47年10月21日、国立教育会館)
    挨拶 世話人代表 田島彌太郎(遺伝研)
  • 山口彦之(東大・放射線遺伝):抗生物質による植物の染色体異常
  • 吉田俊秀,白石行正(遺伝研):カドミウムによるヒトの染色体異常
  • 岩原繁雄(衛生試):食品関連物質の細胞に対する突然変異誘起作用について
  • F. J. de Serres (NIEHS): Mutation-induction in radiation sensitive strains of Neurospora crassa.
  • 近藤宗平(阪大医):突然変異の分子的機構
  • 鈴木武夫(公衆衛生院):人間環境における有害物質
  • 賀田恒夫(遺伝研):Chemical mutagenesis の理論から見た化学変異原のスクリーニング法
  • 白須泰彦(残留農薬研):農薬の毒性問題
  • 遠藤英也(九大癌研):化学発癌と突然変異
  • 斉藤 守(東大医科研):環境における天然発癌物質の役割
  • 柳沢文徳(東京医歯大):アルキルベンゼンスルフォネートの催奇形性に関する考察
  • 梶原 彊(武田薬品):"突然変異試験"と催奇形性
  • 村上氏広(愛知発達障害研):Teratogen, Mutagen および Carcinogen の相互作用
  • W. W. Nichols and R. C. Miller(I. M. R., Camden): Anaphase as a cytogenetic method in mutagenicity testing.
  • 3-1.当時の国内の研究グループが実施した研究

     JEMS 発足当初は、田島先生はじめ、遺伝研の賀田恒夫、土川清、黒田行昭、吉田俊秀の諸先生、近藤宗平教授(阪大)、外村晶教授(東医歯大)、さらに設立総会で講演された先生方が中心となって活動していた。その多くが遺伝学をベースとする研究者であった。
    この中から、学会に影響を与えた研究をいくつか紹介する。
     ・賀田先生は、変異原のより簡便な検出系として、枯草菌を用いてDNA 損傷を検出する "rec-assay"を開発され、日本では1980年代まで細菌による復帰変異試験と併用されるようになった。
     ・外村教授は、食品添加物として汎用されていたAF-2が、in vitro 染色体異常試験で強い染色体切断作用のある事を発見した。1971年に外村教授のもとを訪れた時に、顕微鏡で見せて頂き、驚いた記憶がある。このことが、学会は無論のこと、社会的にも強いインパクトをもたらし、本学会の発展の基礎となったといえる。
     ・土川先生は、マウス優性致死試験を、X 線の研究で用いた経験から、化学物質の研究にも有用と考えられ、優性致死試験の普及に努められた。
    ・変異原性の評価法に関しては、岩原先生が食品関連物質について、白須先生が農薬について、それぞれ検討を始められていた。

     1972年の時点での、受託研究機関と民間企業の状況について触れておく。
     受託研究機関では、残留農薬研究所と野村総合研究所等が変異原性試験にいち早く着手していた。製薬企業では、数社が変異原性試験の実施に踏み切ったかあるいは実施計画中であった。そこで、一例として、武田薬品についてお話しする。
     第1回環境変異原研究会講演会では、民間企業からは武田薬品工業・中央研究所の梶原彊博士が講演された。梶原博士は医薬品の特殊毒性の日本の状況について、かねてより強い危機意識を持たれていた。1960年代には、いち早く医薬品の催奇形性試験を実施された。さらに、変異原性についても欧米の動向を調査され、1969年に私に協力を求められた。梶原博士は、私の恩師の牧野佐二郎教授(北大)の友人であり、1963年には私の米国留学先に訪ねて来られたこともあり、何回かお目に掛かっていた。また、私の先輩も武田に勤めていたことから、梶原博士のお誘いを受け、1970年7月に遺伝研から武田薬品に転職した。入社後直ちに 米国やWHOの勧告に従って、優性致死試験、in vivo 染色体異常試験及び宿主経由試験の3試験法の組み合わせにより医薬品の変異原性試験を開始した。

    3-2.  試験法の研修会

     こうして、日本にも田島先生を会長とするJEMSが誕生し、変異原性に関する学会活動が始まった。翌年の1973年5月30日~6月1日には、JEMSと野村総合研究所の共催で、「薬物の突然変異検出法についての研修会」が鎌倉で開催された。当時、このような実技を伴った研修会は世界的に見ても珍しく、田島先生をはじめJEMS執行部の諸先生が変異原性試験の普及と試験手技のレベルアップにいかに熱心であったかを物語っていた。私も講師の一人として、優性致死法や宿主経由法の講義や実技を担当した。
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    3-3. 学会活動

     1973年9月には、JEMS の第2回大会(研究発表会)が三島市の遺伝研で開催され、その後、毎年10~11月に大会が開催されるようになった。
    JEMS の活動は軌道に乗ったが、その頃の研究発表の多くは、大学や国公立の研究機関からであった。医薬、農薬、食品等の民間企業からの参加は徐々に増えてはいるが、発表は少なかった。製薬企業に比べると、受託研究機関の対応は早かったと言える。
     ここで、1970年前後の毒性関係の学会の雰囲気をお伝えしておこう。毒性メカニズム解明や、新検出系の研究が学会発表として価値があり、新薬の陰性結果などはあまり発表する意味がないとする風潮も当時はあったようである。このような状況を打開するためには、学会を単に発表の場としてだけでなく、同じ分野の試験・研究を行っている産の会員同士との情報交流の場として活用し、研究のレベルアップを図る活動が重要で、近い将来には産・官・学の会員が一体となった学会運営を目指したいと考えた。この目的のために、1980年前後には下記の分科会が結成された。

    【優性致死試験研究会】
     優性致死試験は実験規模も大きく時間もかかる。しかも、各研究機関では背景データも十分ではなかった。土川清先生(遺伝研)とお会いする度に打開策について相談していた。第6回JEMS(1976)の時に、土川先生を中心として優性致死試験の研究会を立ち上げることが決まり。1977年2月に7機関から十数名が三島に集まり、「優性致死試験研究会」がスタートした。土川先生以外は、ほとんどが企業または受託機関の研究者であった。この研究会はJEMSの分科会として承認され、土川代表幹事を中心に1982年まで8回の集会を開催した。

    【小核試験研究会】
     1980年、石館基先生(国立衛試)と私が世話人となって小核試験の確立を目指して発足させた。小核試験は、小核誘発と染色体異常との関係を実証すれば、in vivo 試験として極めて有望であり、石館先生も小核試験の重要性は十分認識されていた。ところが、会を開いてみると、優性致死試験や小核試験などのin vivo 試験を実施している研究機関はほとんど民間に限られており、二つの分科会の出席者も重複していることが判明した。そこで、1981年の第10回JEMSの時に、土川、石館両先生を囲む有志の会合で、両会を統合して新たな研究会を作り、in vivo試験の研究の促進と普及、共同研究の推進など、効率的運営を進めることで、出席者の合意に達した。

    【MMS研究会】
     1982年2月、設立準備会が開かれた。出席者は、土川清(遺伝研)、渋谷徹(食薬センター)、祖父尼俊雄、林真(国衛研)、島田弘康(第一製薬)、山本好一、菊池康基(武田)の7名。新しい会の基本方針を定め、優性致死試験研究会と小核試験研究会を発展的に統合する形で、ここに「哺乳動物変異原性試験研究会、Mammalian Mutagenicity Study Group, 略称MMS研究会」がJEMS の新たな分科会として誕生した。同年5月には第1回会合を開催し、土川先生を会長にin vivo試験系についての活動が開始された。この研究会の大きな特色は、会員には限られた大学の研究者しかいないことであった。大学の研究室では、費用も時間もかかる動物実験はしたくてもできなかったのであろう。
     その後、MMS研究会は哺乳動物を用いる各種変異原性試験について検討し、この分野の研究の発展に務めるとともにヒトへの安全性評価に寄与することを目的とし、多くの共同研究を進めていく。土川先生と国衛研・変異遺伝部を中心に民間の研究機関が集まって、in vivo(あるいはin vitro)の哺乳動物試験系の確立・普及に尽くした功績は大きい。また、小核試験を始めとする種々の試験の共同研究を発足当初から継続して実施しており、その成果は数十報にのぼり、いずれも国際誌に投稿され海外でも高く評価されている。製薬企業をはじめ多くの民間企業あるいは受託研究機関の研究者が意欲的に取り組んだ成果である。

    【BMS研究会】
    1975年、Ames博士らが「微生物を用いる変異原性試験手法(Ames試験)」を論文発表した。国内で使用されている化学物質は数万種あり、発癌性の短期スクリーニングによる効果的な管理手法が求められていた。日本では1977年に労働安全衛生法を改正し、Ames試験によるスクリーニングを義務付け、強い変異原性物質を潜在性発がん物質とみなして管理する「みなし管理」の仕組みを世界に先駆けて確立した。1986年には旧労働省の変異原性試験精度管理事業が始まった。変異原性試験の受託機関から仲間と意見交換ができる場が欲しいとの意見を受け、松島泰次郎博士の呼びかけで、受託機関の微生物変異原性試験の実務者が集まり、「微生物変異原性試験連絡協議会(Ames試験連絡会)」が発足した。これがBMS研究会 (Bacterial Mutagencity Study Group、微生物変異原性試験研究会)の前身である。1989年11月の第5回Ames試験連絡会からは受託機関以外の機関も参加できるようになった。1995年にJEMSの分科会としての位置づけを明確にし、同11月にJEMS/BMS研究会という名称で第16回定例会が開催され現在に至っている。精度管理事業の結果を受けて、実験条件に関する共同研究を実施し、その成果をフィードバックすることで、日本の微生物変異原性試験の品質が世界トップレベルにまで引き上げられた。
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    3-4. 設立当初のJEMSに起こった大きな問題、AF‐2事件

     1973年9月、JEMS の第2回研究発表会が三島の遺伝研で開催された。プログラムを見て驚いた。演題数は全部で17題だったが、後半の7題がAF-2 (furylfuramide,(Z)-2-(2-furyl)-3- (5-nitro-2- furyl)prop-2-enamide)という、当時食品保存料として使用されていた食品添加物に関連するトピックで占められていたのである。当時、汎用されていた多くの食品添加物の安全性に疑念が生じ、大きな社会問題となっていた。最も頻用されていた食品添加物の一つであったAF-2についても、安全性見直しの一環として実施された染色体異常試験で陽性結果が出たことから、学会の一大トピックとして取り上げられた。この時のAF-2関係の発表をまとめてみると、陽性結果は、(1)枯草菌レックアッセイ(rec assay)(2)大腸菌WP2hcr-株の変異誘発性試験、(3)培養細胞での染色体異常試験等で報告された。一方、サルモネラ菌のAmes株TA1535、TA1537、TA1538での復帰変異試験では陰性であった。また、カイコの試験では明瞭な陽性結果はなかったと記憶している。なお、第3回JEMSでは発表23題中11題がAF-2関連の発表であった。AF-2に関しては,「AF-2物語」として別枠にまとめて記述する。
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    3-5. 研究動向の推移

     田島先生が書かれた本「環境は遺伝にどう影響するか」(1981)2)によると、先生に届いた米国EMS設立通知状の添え書きには「人類の遺伝的健康を守るために・・・」と書いてあったそうで、米国でもin vivo系が重視され,体細胞に起こる突然変異よりもむしろ生殖細胞に生じる突然変異を重要視していたようであった。田島先生のこの著書の表紙には、Environment と Heredityの2字が配されており、田島先生も変異原研究に際しheritable mutation を念頭に置かれていたことが伺える。
     ある時、遺伝研での評議員会の後、賀田先生に呼び止められ、少し話をしようと3名ほどが研究室に案内された。話題は、これからの変異原研究の方向についてであった。いろいろ議論は弾んだが、ヒトでheritable mutation の結果としてどんなことが起こるだろうかの話題に移った。「おそらく、遺伝性疾患や奇形児が目に見えて増加するようなことはないだろう」「もし起こるとすれば、ヒトの生存にちょっとマイナスな形質が少しずつ増え、何世代かあとに気がつくと、人類全体の資質が少し低下してしまったり、出生率が低下してしまう、というようなストーリーではないか」といった議論を延々と夜まで交わしたものである。この当時は誰もが、somatic mutation と heritable mutation の両者が化学物質によって同じように誘発されると考えていた。したがって、in vivoの試験は重要で、特に生殖細胞を指標とするマウス優性致死試験やショウジョウバエの伴性劣性致死試験(両試験とも放射線の突然変異研究に汎用されていた)を化学物質でも実施すべきということでお開きになった。
     ところが1973年にAF-2の突然変異誘発性の結果が報告され、これを受けてProf. Ames が検出感度のより高い新菌株を作成したことが報告された。がん原物質のスクリーニングとしてAmes test の有用性に、いち早く着目されたのが国立がんセンターの杉村隆先生であった。Ames test と S9 mixによる代謝活性化法が組み合わされた試験法で、各種化学物質の試験結果が次々と報告された。さらに、somatic mutationががん化のinitiationであるという、多段階発がん説が出るに及んで、発がん研究に携わる医学、薬学、生化学分野の研究者がJEMSに参加されるようになり、遺伝毒性研究の方向性はsomatic mutationへと大きくシフトしていった。
     一方、heritable mutationは、ごく限られた特定の化合物でしか検出されず、somatic mutation のようには誘発されないことが次第に明らかになってきた。1988年5月のJEMS の第1回公開シンポジウムで私がオルガナイザーとして、「環境変異原による遺伝的障害を考える ―ショウジョウバエからヒトまで―」を企画した。生殖細胞を標的とするこれらの試験は、実験規模も大きく専門の知識を必要とすることから、1990年以降は殆ど実施されなくなって、学会におけるheritable mutation 研究の存在感は低下した。

    3-6.学会とガイドライン

     学会の研究活動の中で、産・官・学の意見が割れたのが規制毒性学(regulatory toxicology)についてであった。1980年代に入ると、医薬、農薬、食品等の毒性試験ガイドラインが次々に公布された。官・学の研究者の中にはガイドラインの作成に積極的に関与される方がおられる一方、学の中には規制科学に関心がなく、学会の場でガイドラインを論じるのを良しとしない意見も多くあった。そのため、1980年代前半までは、ガイドラインがらみの議論は研究会の中でのみしかできなかった。このような現象は、JEMSのみならず、当時の毒性関連学会では共通の問題であった。しかし、次第に規制毒性学への認識が改められ、1984年の本学会公開シンポジウム「変異原性試験に関連する規制と諸問題」が突破口となり、以降、学会でのトピックスとしてしばしば取り上げられ、活発な議論が展開されるようになり今日に至っている。1990年代に入ると、OECDの毒性試験ガイドラインや、医薬品のICHが始まり、否応なく国際化の波に対応することになる。
     ここで、医薬品のガイドラインについて解説しておこう。ガイドラインは「薬事法に基づく行政指導の一つで、指針として自由度を与え、原則を示すことがのぞまれる」と位置付けられる。行政指導はその拘束力によって、下の4つに分けられる。
    方 針:趣旨に沿えばよく、具体的な方法に制約されない。
    手引き:従うことが望まれるが、制約されない。
    原 則:理由がない限り、従わねばならない。
    規 則:書かれていることには、従わねばならない。
     ガイドラインは、この「原則」に相当し、正当な理由があれば、必ずしもガイドラインに記された方法に従わなくても良いことを意味している。
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    4. 国際化のうねり

     JEMS 発足の翌年1973年には、米欧日の3学会よりなるICEM (International Conference of Environmental Mutagen) の第1回が米国で開催され、4年おきに回り持ちで開催されることになった。 3rd ICEM は1981年に東京で開催され、京都ではSatellite Symposium が行われた。Stockholm での4th ICEM には、Satellite Symposiumへの参加も含めた北欧を巡るツアーを学会が組んで、30名近くの会員が参加した。
     1990年代に入ると、医薬品について「薬事規制の調和のための国際会議」(International Conference on Harmonisation of Technical Requirement for Registration of Pharmaceuticals for Human Use, ICH)、やOECDの化学物質の毒性ガイドライン、あるいは「国際染色体異常シンポジウム(ISCA)、國際遺伝毒性ワークショップ(IWGT)等々、21世紀を見据えた国際的なガイドライン制定の動きが加速することになる。

    おわりに

     本学会が発足する2年前、私は国立研究機関でのヒト染色体研究という恵まれた環境から、当時としては未知の分野の薬物の遺伝毒性の研究に転身することにした。しかも、研究の場が民間製薬企業となることは、当時36歳の私にとっては全く想定外のことであった。研究テーマと研究の場の転換は、私にとって極めて大きな冒険であった。
     しかし、幸いなことに、1970年8月から取り組んだ種々の変異原性試験について、試験方法の導入・確立を成し遂げることができた。振り返ってみると、私の遺伝毒性研究は本学会と共に歩んできたと言っても過言ではない。この間、極めてささやかではあるが、本学会の発展のお手伝いにも参加し、私を育てて頂いた恩返しも少しはできたのではないかと信じている。
     
     これからの本学会を担う会員、特に若い会員の皆様へ。
     本学会は大きな転換点を迎えている。ゲノム研究とどう向き合い、吸収して、今後の遺伝毒性研究を如何に発展させて行くか。また、学会名の改称問題も控えている。大きな決断に迫られる場も生じるであろうが、皆様方の勇気ある行動を期待している。

     最後に、遺伝毒性についてご指導・ご助言を賜った本学会の諸先生、並びに私の研究にご協力頂いた、社内外の先輩・同僚の方々に衷心より御礼申し上げる。
    本稿作成において、校閲並びに数々のご助言を頂いた、JEMS広報委員会の本田大士、鈴木孝昌、増村健一会員に深謝する。

    文献

    1) 菊池康基,1968. 遺伝. 22,No. 4:54
    2) 田島彌太郎,1981. ダイヤモンド社.「環境は遺伝にどう影響するか」

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    Appendix.1970年代から1980代にかけて行われた変異原性試験

    • 染色体異常試験(Chromosome aberration test)
    •  細胞遺伝学的試験ともいう。細胞の分裂中期における染色体異常を観察する試験。げっ歯類に被験物質物質を投与し、骨髄細胞あるいは精原細胞などで染色体異常を観察する in vivo 試験と、培養細胞を用いる in vitro 試験がある。
    • 優性致死(突然変異)試験(Dominant lethal mutation test)
    •  雄マウスに被検物質を投与し、無処理メスと交配する。減数分裂終了後に雄の生殖細胞(精原細胞~精子)に生じた染色体異常は、受精後に胚の初期死亡および不着床を引き起こすので、これを指標とする。減数分裂前の精原細胞および精母細胞に染色体異常が生じた場合には、減数分裂の過程で死滅して精子数の減少をきたし、不妊あるいは不受精卵が増加する。この妊性の低下も優性致死試験の指標の一つとなる。本試験は化学物質の遺伝毒性を評価する in vivo 試験として、1960年代から1980年代にかけて強く推奨されていた。しかし、使用するマウスの数が多く試験規模も大きく試験期間も長くて、実験動物愛護の面から好ましい試験とは言えないことなどから、1990年代以降にはあまり実施されなくなった。
    • 宿主経由試験(Host mediated assay)
    •  マウスなどの宿主動物の腹腔内に試験用の微生物を注入したのち、宿主に被検物質を投与し、一定時間後に腹腔より回収した試験菌の突然変異頻度を調べる試験。哺乳類の代謝物の変異誘発性を調べることができる試験として、1970年代に推奨されていたが、その後 微生物を用いる in vitro 試験にS9 mix が汎用されるようになると、手法の難しさ、データの再現性や精度の低さなどから実施されなくなった。
    • 小核試験(Micronucleus test)
    •  小核試験は1973年にHeddle と Schmid によってそれぞれ独立して開発された試験である。染色体異常を直接観察する代わりに、染色体切断や紡錘体機能の阻害作用の結果形成される小核を観察することによって、染色体異常誘発能を推定する方法である。1980年代には、被検物質を投与したマウスの骨髄あるいは末梢血の塗抹標本で、赤血球中の小核の出現頻度を調べる方法がとられた。
    • レックアッセイ(rec - assay)
    •  枯草菌を用いて化学物質のDNA損傷性を検出する試験系。枯草菌にはDNA損傷に対し、組換え修復能を有する野生株と修復欠損株があり、欠損株はその生育が強く阻害される。したがって、野生株に比べて欠損株の生育を著しく阻害する化学物質はDNAに損傷を与えていることを示す。この方法は賀田恒夫博士(遺伝研)が開発されたこともあり、1980年代までわが国で汎用された。
    • 復帰突然変異試験(Reverse mutation test)
    •  微生物を用いて化学物質によって誘発された復帰突然変異を検出する試験。試験菌株としては、1960年代は大腸菌が用いられていた。その後、B. N. Ames 博士(カリフォルニア大)が1971年に試験菌株として開発したサルモネラ菌TA1535、TA1537、TA1538と、1975年に開発された高感度の新菌株TA98, TA100とを用いる方法がAmes Test として、代謝活性化系S9 mix と組み合わせて試験されるようになった。
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    会長挨拶

    松田知成 (2024-2025年度会長)

     日本環境変異原ゲノム学会は、人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な関係を有する変異原とこれに関連する基礎研究の推進、ならびに関連情報・技術の伝達を目的として、1972年に創設されました。本学会の学会員は、DNA損傷、突然変異、発癌のメカニズム研究から、環境中の新規変異原物質の同定、食品中の抗変異原物質の同定、新しい安全性評価方法の開発などの研究で、世界をリードする成果を上げてきました。今後も、最新の研究技術を取り入れて研究をさらに発展させていただくことを願っております。特に、最近の発癌研究では、次世代DNAシーケンサーによって生み出される膨大なデータを解析し、癌で見られる突然変異のパターンから、癌の原因を特定できるのではないかと期待されています。しかし、このような研究で原因がわかる例はまだごく僅かで、環境中にはまだ未知の重要な変異原物質が存在することがわかってきました。これらの同定と評価は本学会として取り組むべきテーマの一つだと思います。また、日々生み出される新素材や化合物の安全性評価の高度化と効率化も今後の重要なテーマです。一方で、これら本学会設立当初からのスコープに加え学会としての研究の幅を広げていくことも重要であり、そのために、他学会とのコラボレーションや学際的な研究活動をさらに活発に展開したいと考えています。

    山田雅巳 (2022-2023年度会長)

     日本環境変異原ゲノム学会(JEMS)に改称後,初めての会長挨拶ということで,襟を正しております.まず,これから会員になっていただく方のために,自己紹介を交えながらJEMSの内容に触れることにします.初代会長の田島彌太郎先生(名誉会員,故人)から数えて私は19代目に当たります.そして,昨年創立50周年を迎えたJEMSで,初の女性会長です.これまでの会長が繰り返し述べておられるように,JEMSは産官学がそれぞれの視点で研究を進め,バランスよく連携して活動を続けてきました.私はそこに32年間籍を置いてまいりました.スタートは国立衛生試験所(現 国立医薬品食品衛生研究所)の変異遺伝部です.当時は変異遺伝部がJEMSの事務局の仕事をしていて,部長室に入会届を出しました.入会は大会で発表するためであり,最初の10年くらいは毎年大会に参加して研究発表をする「一研究者」の立場でした.大「学」の先生方を中心に交流を深めました.その後,BMS研究会や変異機構研究会に参加するようになりました.この研究会はJEMSのユニークな活動のひとつで,学会活動の幅を広げるものになっています.また,官民共同で取り組む研究費をいただいたことで,「産」の方々と交流を持つ機会が増えました.それから,国の委員会に出席する機会が増え,JEMSにおいても自分が「官」の立場であることを意識するようになりました.直近の10年余りは評議員や理事の立場で学会運営にも携わるようになり,年次大会の実行委員を3度経験し,昨年は大会会長を務めました.大会開催と並ぶ学術活動である学会誌の編集・発行には,3代目の編集委員長として関わっております.JEMSが何をする学会か,これまでの活動内容・業績などについては,改めて述べることはせず歴代会長の挨拶に委ねます.がん,環境,化学物質,レギュラトリーサイエンス,アジアなど多岐にわたることに驚かれると思います.
     葛西先生(2012-13年度会長)が書かれているように,大会で発表される研究内容はこの30年で随分変わりました.会長挨拶には,それぞれの方の研究背景を色濃く反映した形で「これからこういうことをやろう」と書かれていますが,それで発表内容が左右されたわけではないでしょう.会員をはじめとする大会参加者が,興味と熱意を持って研究し,発表し続けた結果に違いありません.そう考えると,あえて名前は書きませんが,今,感染急拡大中のウイルスに似ているなと思いました.ウイルスは意図的に変異を起こしているわけではなく,ランダムに次々変化した結果,ウイルスにとっていいものが残っているのです.Jems News(会員向けの季刊ニュースレター)の一昨年の巻頭言に三島前会長は「面白いことをやろう」と書きました.会員一人一人が面白いと思うことをやり続けることが大事だと私も思います.では執行部は何をすればいいのか.学会の居心地をよくするために知恵を絞ることではないかと思います.JEMSに興味を持ってくださる研究者,入会してみようと思う人が集まってくださることを期待しています.

    三島雅之 (2020-2021年度会長)

     私たちの生活環境には人が作った様々な化学物質が入り込んでおり、近年その数は増加する一方です。化学物質のなかには遺伝子突然変異を誘発してがんの原因になったり、次世代に影響するものがあり、それらを変異原、あるいは総称的に遺伝毒性物質といいます。日本環境変異原学会は、人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な影響を及ぼす変異原と、これに関連する基礎研究の推進ならびに関連情報技術の伝達を目的として活動する学会です。毎年1回秋に開催される大会は令和3年に第50回を迎えます。学会誌であるGenes & Environment誌(G&E)は今年インパクトファクターを取得しました。これら2つ、大会の開催とG&Eの発行が本学会の最も重要な学術活動です。本学会は産・官・学メンバーが率直に意見交換できる風土を有し、遺伝毒性物質の検出、同定、代謝、機序の研究推進や標準試験法の確立、食品添加物、農薬、環境汚染物質、医薬品、化粧品、労働安全にかかわる基準の決定と規制の実践・教育に大きな役割を果たしています。
     現在の日本では環境汚染や食品添加物、農薬などの発がん性を心配せずに生活できるようになりましたが、新たな問題も見えてきました。身の回りの様々な製品が国際的なサプライチェーンによって調達されるため、海外原料を使用した製品に遺伝毒性物質が混入していることが発見され、製品回収に至る事件が起きています。また、国民のおよそ半数が生涯のどこかでがんと診断され、がん治療の飛躍的な向上で患者の生存期間が大きく伸びている状況から、遺伝毒性を有する抗がん剤による2次発がんの問題が注目され始めています。さらに、食品の加熱調理や腸内細菌の代謝によっても遺伝毒性物質が産生されます。国内で申請される新規化学物質にどれほど厳格な法規制を導入しても、私たちの生活から遺伝毒性物質を完全に排除することは望めないのです。
     日本環境変異原学会は、第50回大会の節目に「日本環境変異原ゲノム学会」と名称を変えて新たな一歩を踏み出そうとしています。ハザードの検出に重点を置いた伝統的な環境変異原研究を、新時代の課題解決につながる内容に変えていこうとする意志の表明です。今後、遺伝毒性学者は何を目指すべきなのでしょうか。私は、少なくとも、「遺伝毒性は定性評価」と言われた過去と決別して、生物活性と暴露量の関係に基づく定量的な評価に移行し、現実的なリスク・ベネフィットの議論をすることが必要と考えます。そのためには、発がん要因を明らかにして各要因の影響力を推測する、膨大な数の化学物質を評価できるQSARシステムを進歩させる、DNA傷害の定量的バイオマーカーを探索する、DNA修復についての理解を深める、エピジェネティックな影響を明らかにしていくことが不可欠ですし、今はまだ見えていない新しい発想の研究も必要でしょう。臨床応用を目指すiPS細胞のゲノム安定性の問題や、産業利用が期待されるゲノム編集生物の生物進化へのインパクトを研究し、技術の適正使用についても発言していくべきです。学会名に「ゲノム」を付け加えるだけのことですが、我々は遺伝物質の変化がゲノム全体に与える影響を理解し、それが個体や種にどんな変化をもたらすかを考える、ゲノム毒性学とでも言うべき分野に取り組もうとしています。ご興味のある方は、ぜひこの学会で一緒に活動してみませんか。

    本間正充 (2018-2019年度会長)

     1960年の高度経済成長期の日本は、急速な工業化により環境は悪化し、人々は環境汚染物質に曝露され、深刻な公害問題を引き起こしました。また、増え続ける人口に対応するため、食料の増産が必須で有り、大量の農薬、食品添加物が使われていました。このような環境中、食品中の化学物質の中には、DNAに損傷を与え、がんや遺伝病を引き起こす可能性があるものが存在します。これらを変異原(物質)と言います。日本環境変異原学会は、人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な影響を及ぼす変異原と、これに関連する基礎研究の推進ならびに関連情報技術の伝達を目的として、1972年に日本環境変異原研究会として発足し、その後1978年から学会組織となり、現在に至っています。今年(2018年)、京都で開催される年大会は47回目となり、化学物質の毒性を研究対象とする学会組織の中では最も古い歴史を持ちます。
     学会設立当初の研究は、環境中の変異原性汚染物質の同定、食品添加物・農薬等の変異原性の証明、加熱食品中の変異原性物質の同定、環境変異原・がん原物質の代謝活性化機構等の研究が主体でした。これら研究を通じて、多くの変異原性・遺伝毒性試験法が開発され、試験法の標準化、国際的ガイドライン化が進みました。また、研究の成果は、化審法、食品衛生法などの法律に反映され、今日の日本では環境や食品を介しての変異原性物質の摂取による健康被害はほぼゼロになるように厳しく規制されています。これはまさにレギュラトリーサイエンスの勝利の結果です。環境変異原研究におけるレギュラトリーサイエンスとは、生活環境中に存在する化学物質に関して、その成因や機構、量的と質的な実態、およびその有害性影響をより的確に知るための方法を編み出し、その成果を用いて安全性を予測・評価し、行政を通じて国民の健康に資することです。日本環境変異原学会は、官・産・学の研究者の連携により、レギュラトリーサイエンスを介して社会に貢献してきました。一方、基礎研究の分野も設立当時から大きく進展しました。変異原性の主体はDNAです。分子生物学、細胞生物学、細胞遺伝学の進歩によりDNAの複製や修復機構が解明され、また解析技術の進歩から個々の変異原性物質の毒性メカニズムを詳細に知ることができるようになりました。現在では、全ゲノムDNA配列を短時間で解析し突然変異を同定することも難しいことではない時代になっています。このように日本環境変異原学会はレギュラトリーサイエンスと基礎研究を通じて、生活環境中に存在する健康に重大な影響を及ぼす変異原物質をほぼ征服しました。学会創設から約50年経過した現在、一つの時代が終わったと言っていいかもしれません。
     次の時代、日本環境変異原学会は何をすべきか?これは日本環境変異学会に限らず全ての研究分野に共通する大きな課題です。これまでの手法や、考えにこだわらず、分野を超えて新しいことにチャレンジする必要があります。先ほど重要な変異原物質をほぼ征服したと言ったのは単なるうぬぼれかもしれません。新たな変異原物質は、もしかすると我々の身の回りにまだ多く存在し、ただ、それは従来の方法では見えないだけなのかもしれません。従来の方法にこだわり、新たな脅威を見逃してはなりません。このためにはより高度な戦略が必要です。日本政府は昨年末、分野を横断して科学技術の革新をめざす「統合イノベーション戦略」(仮称)策定に向けて動き出しました。健康・医療やIT(情報技術)などの重点分野を設定して研究開発を支援します。日本環境変異原学会はこの流れの中で新たな研究への挑戦と、新たな健康への脅威に立ち向かわなくてはなりません。

    宇野芳文 (2016-2017年度会長)

     本会の目的は,「人間・生物・地球環境における変異原,とくに公衆の健康に重大な関係を有する変異原とこれに関連する基礎研究の推進,ならびに関連情報・技術の伝達」です.変異原とは,遺伝子や染色体に突然変異を起こす物理的,化学的,生物的要因の総称で,一般に変異原というと化学変異原をさす場合が多く,2011年の大震災による原発事故で漏洩した放射性物質もそのひとつです(但し,変異原の実態は放射性物質が発する放射線で,これは物理的要因に分類されます).その他にも環境中には,太陽光中の紫外線,タバコの煙,肉類の焼け焦げなど多くの変異原が存在し,健康に重大な影響を及ぼすとされます.変異原はDNAや染色体にダメージを与え,結果として生じる重大な健康影響の一つが発がんです.本会は変異原の研究者の多くが参集する学会であり,基礎から応用研究まで幅広い議論を行っています.
     本会の関心事のひとつとして,変異原のリスク(危険性)評価があります.先人たちが変異原を高感度で検出できる簡便な試験法(変異原性試験または遺伝毒性試験と言います)を開発し,それらは化学物質の法規制のためのガイドライン試験として国際的に標準化されています.標準化の過程において,本会の会員は多大な貢献をしてきました.新たに合成される化学物質の殆どは変異原性試験での評価が義務付けられ,変異原は国による法規制により厳格に管理されています.本会には化学物質を規制するための国の各種委員会に属する会員も多数おり,国民の健康のために尽力しています.このような研究はレギュラトリーサイエンス(規制科学)と呼ばれます.本会ではレギュラトリーサイエンスに寄与する新しい知見が次々と報告され,最新のデータや考え方に基づいてリスクを正しく評価するための議論が日々なされています.
     本会に興味をもたれる方のご参加を心よりお待ちしております.

    青木康展 (2014-2015年度会長)

     日本環境変異原学会(JEMS; The Japanese Environmental Mutagen Society)会長への就任に当たり、一言ご挨拶申し上げます。
     歴代の会長御挨拶にありますように、多くのJEMS会員が世界の環境変異原研究をリードする成果を挙げてまいりました。その伝統を生かしつつ、環境変異原研究がさらに発展するよう努めてまいる所存でおります。
     人をはじめ生物は、環境から被る化学物質や物理的因子などの「環境情報」に巧みに応答しつつ、ゲノム上の遺伝子に記録された「遺伝情報」即ちDNAの塩基配列を後代に正確に伝えて地球上で繁栄してきたと考えられます。生物は、大気、水、食物などを通じて環境から様々の化学物質を取り込み、また放射線や太陽光の照射を受けています。化学物質や物理的因子の有害作用の多くは生体防御作用により軽減されていますが、その一部は塩基配列をはじめとしたDNAの構造に変化を引き起こし、遺伝子に変異を起こす性質(変異原性)を示します。変異原性を示す化学物質・物理的因子は変異原と総称されます。また最近は、DNAのメチル化などエピジェネティックな作用も遺伝子の機能に変化を及ぼすことが知られています。これら遺伝子の変異やエピジェネティックな作用が生殖細胞に発生することは、後代に突然変異が発生する原因になります。また、体細胞での遺伝子の変異の発生は、がん発症の原因となります。この遺伝子変異や遺伝子機能に及ぼす機構やその防御機構を明らかにすることは、生命科学としてばかりでなく、健康科学として重要な課題です。これら遺伝子の構造あるいは機能に対する悪影響(遺伝毒性)に関わる諸課題に取り組むことが、JEMSの役割と考えます。「環境情報」と「遺伝情報」のクロストークは、しばしばGene and Environment Interactionというキーワードで語られます。JEMSのモットー"Science for Genome Safety(ゲノムの安全のための科学)"や英文誌タイトル"Genes and Environment"は私たちの役割を表現したものです。
     長い生命の歴史の中では化学物質や物理的因子はすべて自然に存在したものでしたが、20世紀前半からの工業社会の進展に伴い、人は自らが創り出した化学物質(Man-made Chemical)等を利用して利便性を得るようになりました。その一方、人為的な変異原が環境に放出される社会が形成されるようになりました。いわゆる公害の収束により、環境から被る健康影響は優先順位が低下したように思われがちですが、最近、大気汚染がIARCのグループI(ヒトに対する発がん性が十分確かめられている)として分類されたことが示すように、まだ、未同定の変異原が存在し、未解明の課題が多々存在することが予想されます。環境変異原研究は21世紀の生物学といえるかもしれません。
    健康科学の観点に立てば、人が摂取する、あるいは曝露を受ける化学物質や物理的因子の内どのようなものが変異原性を示すかを明らかにする必要があります。また、リスクを評価し摂取レベルが安全域にあるか否かを示していく必要もあります。これらは、自然科学と社会の仕組みの接点となるレギュラトリー・サイエンス(規制科学)の課題でもありますが、その取り組みもJEMSの大きな役割です。
     変異原の同定や変異原性のリスク評価の基盤となる変異原試験法の開発は、安全性を確保する上で重要なテーマです。試験法開発は一国に閉じられた課題ではなく、国際協力と国際調和の中で進める必要があります。JEMS会員の協力により開発された試験法が、OECDや医薬品の規制の国際調和を協議する機関であるICHなどのテストガイドラインに採用されてきました。同時に、JEMS会員がテストガイドライン策定の議論にも参画し、策定に大きく関与しています。
     ここ数年の次世代DNAシークエンサーの汎用化により、個体ごとの全ゲノムDNA配列決定が夢ではない時代がやってきました。このような分析技術に加えて遺伝子工学の発展によって環境変異原研究の新たな地平が開かれる予感がします。また、社会と人間活動の変化に伴い、Science for Genome Safety に関わる多様な未知の課題が引き起こされると考えられます。その一方、経済的な発展途上にある諸国では、我が国が経験した環境汚染の問題が起こっています。これらの問題克服にもJEMS会員の研究は貢献しています。JEMSは基礎生物学から試験法の開発など課題解決にあたる研究まで変異原に関する幅広い活動を進めています。この活動は,大学、公共研究機関,企業の3セクターの緊密な連携があって始めて成しえるものです。JEMSはこの3つのセクターに所属する会員によりバランスよく構成され、多くの共同研究が進められています。今後とも、関係分野の研究者の皆様の参加を仰ぎつつ、環境変異原の研究を促進・支援する学術団体であるJEMSの活動をより一層充実させる所存でおります。

    葛西 宏 (2012-2013年度会長)

     40年もの歴史のある本学会の会長に指名され、その重責に身の引き締まる思いです。そして東日本大震災に伴う、福島原発事故以来問題山積であり、被災された方々のためにもわれわれの研究分野からの責務を果たすべく一層の努力をして参りたいと思います。

     福島の原発事故の件では、今も続いている放射能漏れに対しもっと厳しく対処すべきだと思います。一方で、既にまき散らされた放射性物質のリスクに関しては懸念が続いています。研究者として次の点を再確認し正しい情報を発信すべきだと思います。1)どの点が研究結果として明らかで、どの点が不明なのか、2)明白になっている研究結果については一般の方々にほんとうに正しく伝わっているのか。この2点です。ヒトは多くの変異原の中で暮らしています。IARCがグループ1(ヒトに対する発がん性が十分確かめられている)に分類している太陽光線、タバコの煙(喫煙、間接喫煙)、放射線等のうち太陽光線、タバコの煙等に関しては個人個人の判断のもとにヒトはうまく付き合ってきました。しかし昨年の大震災後問題となっている放射線だけは特別危険なものとして扱われているように思います。様々な環境変異原によるリスク全体の中で放射線はほんの一部であることを冷静に考えるべきです。

     先日、私が持っていた30年前の学会要旨集を見て最近のものとの大きな違いに気が付きました。以前は大気、土壌、河川水、食品、インク、ヘアダイ等、様々なものから変異原性を調べ物質的に明らかにしようとしていました(15報位)。例えば去年の大会ではこのような研究は2,3報しかありませんでした。環境変異原のほとんどが解明され未知のものはなくなった、とは思えません。遺伝子変異、トキシコゲノミックス等、最先端の技術の導入は優先的に取り入れる必要はありますが、変異原の物質的研究は平行して続けられるべきでしょう。なぜなら癌予防は原因物質の同定なくしては難しいからです。これら以外にも、今後、黄砂、光化学スモッグ、海洋汚染等、アジアの各国と共同で取り組むべき研究テーマも多くなると思われます。また環境変異原研究はヒトを守るための研究ですから、ヒト試料(血液、唾液、尿、等)を用いた、変異原のヒトへの暴露量、吸収、排泄、DNA付加体の分析、遺伝子変異等、バイオモニタリング的研究をもっと行うべきだと思います。そして各分野(変異原物質、遺伝子変異、抗変異、リスク評価、トキシコゲノミックス等)における研究結果を論文として発表することが大切です。重要な研究成果が出たときには学会誌であるGenes & Environ.に積極的に投稿してゆきたいと思います。これらの研究がヒトの健康を守るために役立つことを願っております。

    山添 康 (2010-2011年度会長)

     日本環境変異原学会の会員の皆様、『想定外の文字』を新聞等で目にすることの多く、また何かと落ち着かない日々が続いていますが、お元気で活躍のことと存じます。
     3月11日に起きた東日本大震災で、被災された方、あるいは家族が被害に遭われた方々に、日本環境変異原学会を代表して哀悼の意を表します。  私が務める東北大学も一部の建物と設備が損傷しました。自宅のライフライン回復の遅れ、交通網の復旧の遅滞を経験して、私も日常生活の有難さを実感しました。今回の大震災では、津波の大きさと放射性物質の域外拡散によって、事前に準備されていた方法と手段が適切に機能しない事態が生じてしまいました。物質的にはほぼ満たされた生活を送ることになれた現代人は、快適さが消失することに関心が強く、回復にむけて強く反応する傾向があります。震災後仙台を含む多くの町で自動車の燃料を求めて長い車列ができました。現在は供給が正常に戻っていますが、一度不足の事態を体験すると供給が正常化しても不安からいつも満タンにしておこうとする心理が働きます。このように人間は災害そのものに素早く対応できますが、付随して起きる不安にはうまく対処できず、過度の反応を示すことがあります。

     東電福島発電所から放射性物質が排水を経て域外に放出されて問題となっています。この問題は本学会の活動とも深く関わっており、このことに関心を持たれている会員も多いと思います。ご承知のように放射線の遅延性影響はおもに遺伝子損傷からくる癌原性および染色体異常として調べられています。しかしながら放射線の影響を評価するデータは十分でなく、しかも放射線の人体影響については、低線量域暴露による影響が明確でないため、評価にたどり着くためには閾値と補外の妥当性の議論を避けて通れないのが現状です。このためICRPなどが示している20 mSvなどの値は、ALARAの原則に基づいた安全側にたった管理基準であり、具体的な研究結果から導かれたリスク評価の結果として得られたものではありません。したがって社会状況や作業環境によって管理基準が一時的に変更されることがあり、一方で恣意的とされ不信感を生じることになります。

     科学者はこのような状況においてできるだけ正確な判断とその根拠を人々に伝え、冷静な対応ができるようにサポートすることが求められていると思います。我々の研究領域は、遺伝子の特性を科学して、ヒトの安全を担う役目をもっています。想定外の事態が起きているときにこそ、我々の知識と考え方を打開に活かすことが望まれます。すでに複数の本学会員が食品等の放射線安全基準の策定に関与いただいていますが、多くの会員が、一般の方々への放射線についての知識の橋渡しに務めていただければと考えております。

    平成23年5月  会長 山添 康

    八木 孝司 (2008-2009年度会長)

    日本環境変異原学会は、人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な関係を有する変異原とこれに関連する基礎研究の推進、ならびに関連情報・技術の伝達を目的として、1972年に創設された学会です。環境変異原とは環境中に存在する突然変異を起こす因子のことで、化学変異原と物理変異原があります。本学会の研究内容は食事・大気・水などに含まれる未知の変異原物質・人体影響物質の探索、大気・河川水・土壌など環境中に存在する変異原物質の測定、個々の変異原の作用メカニズム・発がんメカニズムなどの解明、ヒト個体間および動物種間における変異原感受性の違いの要因の解明、環境変異原物質の複合効果の解明、環境変異原物質の生態系への影響の解明、食品・医薬品や新しい化学製品の安全性の確認、安全性試験法の開発と改良、環境変異原のヒトへの発がんリスク評価などに及んでいます。化学物質の安全基準値の決定や遺伝毒性試験法の確立など行政とも深く関わっています。

    一例ですが、本学会会員の研究から、これまでに次のような大きな成果が出ています。食品添加物AF-2の変異原性の証明(近藤宗平・賀田恒夫ら)、加熱食品中の変異原物質ヘテロサイクリックアミンの発見(杉村隆・長尾美奈子ら)、染色体異常を指標とした変異原物質検出法の開発(石館基、祖父尼俊雄ら)、変異原物質の代謝活性化機構の解明(加藤隆一、鎌滝哲也ら)、大気中の変異原物質の同定(常磐寛、大西克成ら)、環境変異原物質吸着剤ブルーレーヨンの開発(早津彦哉ら)、DNAの酸化損傷8-ヒドロキシグアニンの発見(西村暹、葛西宏ら)。

    このような輝かしい歴史の上に、いま日本環境変異原学会はさらなる発展に取り組んでいます。その背景にはまず環境影響研究領域の拡大と、ヒトゲノム解明などに基づく分子レベルの研究法の進展があります。現在の日本の環境は低濃度で他種類の物質によって汚染しています。かつての水俣病、イタイイタイ病、近年では記憶に新しいアスベスト中皮腫など、公害型の人体影響は日本ではほとんどなくなり、日本の環境はきれいになったといわれています。しかし国立がんセンターの統計によれば、がんに罹る率(高齢化の影響を除いた年齢調整罹患率)の1975年以来の推移は胃がんと子宮がんを除いて、ほとんど横ばいか、肺がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がんなど多くのがんで増え続けています。年齢を限定して全がんの罹患率を1980年と2000年とで比較すると、男性では60歳代以上で、女性では40歳代以上で増えています。がんの原因の大部分は環境要因であると考えられており、環境やライフスタイルの変化に伴う、体内へ取り込まれる物質(これには食品中の自然の成分も含まれます)の種類と量の変化が、がんの増加に関わっていると考えられます。これらのことから、環境変異原の研究は単一の化学物質の遺伝子突然変異に限らず、さらに他の要因をも考慮して発がんへ至る過程を考えるべきであることを示しています。

    いま考えるべきその要因の1つに化学物質による遺伝子発現のかく乱があります。近年のエストロゲンやダイオキシン類を中心とした内分泌攪乱物質研究の勃興以前から、我々は化学物質の変異原性と催奇形性をオーバーラップした機構による性質として捉えてきました。ほ乳類細胞には約50種類の核内受容体が存在し、それらのリガンドとなる化学物質が環境中に存在します。それらはアゴニストあるいはアンタゴニストとして機能し、本来のリガンドと受容体によるべき転写を促進させたり抑制したりします。たとえばタモキシフェンがエストロゲン受容体のリガンドになり、かつDNAに付加体を形成するという2つの作用を考えると、突然変異を起こしたエストロゲン応答性細胞が増殖促進させられることによってがん化が導かれると説明づけられます。これは以前から知られている、がん化のイニシエーションとプロモーション仮説と同じことです。このような作用は、タモキシフェンのように1つの物質が持つこともあれば、環境中のいくつかの物質による複合効果によることもあります。このように環境化学物質によるがん化の解明に限っても、変異原性だけにとどまっていては限界があり、まして化学物質による生体影響を総合的に解明するためには、遺伝子発現の網羅的解析のような斬新な方法の開拓や関連する他学会との連携も求められます。化学物質による遺伝子発現変化によって起こる形質変化は、そもそも環境変異と呼ばれる現象です。環境変異の原因としての環境変異原、特にエピジェネティックな遺伝子発現変化を起こす環境変異原(Epimutagen)も、本学会の研究対象の1つとみることができます。

    本学会の発展のためのもう1つの取り組みはアジア諸国との連携です。現在、韓国・中国・インドなど、アジア諸国の経済発展はめざましく、それに伴ってアジア諸国の環境変異原研究は質・量共に増大しています。本学会はアジア各国の手本となるべく、さらなる研究レベルの向上に努め、アジア各国の研究者に研究の情報や技術を提供していかなければなりません。また経済発展の代償のようにアジア各国では環境汚染が進み、その影響が日本にまで及んでいます。そのためアジア各国の変異原学会と連携して、研究交流・協力を行う必要があります。昨年は小倉で第1回アジア環境変異原学会大会が開かれましたが、2年後にはタイのアユタヤにて第2回大会が開かれる予定です。本学会は第2回大会が成功するよう支援します。一昨年、学会機関誌はGenes & Environmentとして英文化されましたが、そのレベルアップを図り、これがアジア変異原学会の機関誌となるよう努力するつもりです。

    以上述べた事柄に本学会の会員は一丸となって取り組んでおり、今、その研究は質・量共に向上し、ますます活気溢れる学会になっています。この分野に興味をお持ちの大学、研究機関、企業などの研究者で、まだ会員になっておられないかたはぜひご入会ください。心から歓迎申し上げます。


    若林 敬二 (2006-2007年度会長)

    平成18年の我が国のがんの総死亡者数は329,314人にもなります。がんは遺伝子の病気で、その発生には多くのgenetic 及びepigeneticな変化が関与しています。すなわち、正常細胞ががん細胞に変化するためには多くの段階があり、多くの遺伝子変化の蓄積が必要です。言い換えれば、私たちの身の回りにある多くの発がん因子が各々に作用しあって、がん発生に関与する数多くの遺伝子を長い年月をかけて少しずつ傷害し続けた結果、がんが発生してくるものと考えられます。職業がんや、感染が原因となっているがんは、それらの因果関係が多くの場合明らかにされています。しかし、その他の大部分のがんの発生にどのような要因が関与しているかについては、ほとんどわかっていないのが現状です。例えば、膵臓がんで高頻度に認められるK-rasの変異を引き起こす要因は未だに明らかにされていません。

    我が国には伝統的な化学発がんの歴史があります。1915年、山極勝三郎博士がウサギの耳にコールタールを塗り、世界で初めて動物にがんを作ることに成功しました。1932年には吉田富三博士等がオルト-アミノアゾトルオールを飼料に混ぜてラットに投与し、肝臓にがんを作りました。更に1957年に、中原和郎博士等は変異原性を有する4-ニトロキノリン1-オキシド(4NQO)をマウスの皮膚に塗布すると発がんすることを証明しました。その後、杉村隆博士等は1966~67年に変異原物質であるN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)をラットに皮下注射して肉腫を発生させるとともに、MNNGを含む飲料水をラットに投与することで、胃がんを誘発させることに成功しました。これらの成果は変異原物質と発がん物質との関連性を示し、発がんが遺伝子の変化によることを示唆した先駆的な業績でした。

    このような歴史を背景にして、日本環境変異原学会が1972年に創設されました。その翌年(1973年)には、食品防腐剤のニトロフラン誘導体AF-2の変異原性が近藤宗平博士、賀田恒夫博士により報告され、その後、発がん性が証明されて使用禁止になりました。更に、多くの優れた業績が本学会から生まれています。それらのいくつかを以下に示します。

    1. AF-2の突然変異原性の証明
    2. 加熱食品中の変異・がん原性ヘテロサイクリックアミンの発見
    3. 染色体異常を指標としたがん原物質の検出法の開発
    4. 環境変異原・がん原物質の代謝活性化機構
    5. 大気中の変異原性汚染物質の同定
    6. ブルーコットン、ブルーレーヨンの開発
    7. DNAの酸化的傷害により生ずる8-OH-dGの同定

    日本環境変異原学会の会則第2章には「本会は人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な関係を有する変異原とこれに関連する基礎研究の推進、ならびに関連情報・技術の伝達を目的とする。」とあります。前述しましたように、ヒトがんの誘発にどのような環境要因が係わっているかについては未解明の部分が多くあります。しかし、がんのリスク要因を低減化するためには、これらの要因とその発がん機構を一つ一つ解明するとともに、多種多様の発がん要因を総合的見地から把握することが必要です。食事、大気や水などに含まれる未知の変異原・がん原物質の検索及びそれらの発がん機構、生体内で生成される発がん要因の同定、アスベストの曝露及びその発がん機構、新しい化学製品の安全性、発がん感受性要因、環境変異原・がん原物質のヒト発がんに対するリスクなど、本学会が中心となって解決しなければならない研究課題は多くあります。韓国、中国などのアジア諸国でも同様な問題を抱えているものと思われます。本学会の理事及び評議員とが問題意識を共有し、会員と協力して活気のある前向きな学会にしていきたいと考えています。

    学会概要

    日本環境変異原ゲノム学会
    The Japanese Environmental Mutagen and Genome Society (JEMS)

    【目的】
    人間・生物・地球環境における変異原、とくに公衆の健康に重大な関係を有する変異原と、これに関連する基礎研究の推進ならびに関連情報技術の伝達を目的とする。

    【設立】
    昭和47年8月21日

    【設立経緯・沿革】
    昭和47年8月21日に上記の目的に賛同する研究者が集り、日本環境変異原研究会を組織し、その事務局を国立遺伝学研究所に設置した。その後会員数の増大に伴い、昭和53年1月1日より日本環境変異原学会に改組された。令和3年1月1日より、日本環境変異原ゲノム学会に名称変更した。

    【団体所在地】
    〒170-0003 東京都豊島区駒込1-43-9 駒込TSビル
            (一財)口腔保健協会内 日本環境変異原ゲノム学会
    TEL 03 (3947) 8891   FAX 03 (3947) 8341

    【事務局所在地】
    〒170-0003 東京都豊島区駒込1-43-9 駒込TSビル
            (一財)口腔保健協会内 日本環境変異原ゲノム学会
    TEL 03 (3947) 8891   FAX 03 (3947) 8341

    【会則・細則】
    PDFファイル(令和4年11月15日改訂版)

    【活動】
    年次大会(1回/年) 
    公開シンポジウム(1回/年)

    【出版物】 
    学会誌 Genes and Environment (オープンアクセス)
    会員向けニュース JEMS News (4回/年)(会員専用ページで公開中)

    【顕彰事業】
    日本環境変異原ゲノム学会 学会賞
    日本環境変異原ゲノム学会 研究奨励賞
    日本環境変異原ゲノム学会 功労賞

    ※過去の受賞者一覧はこちら

    【国際学術団体との連携】
    国際環境変異原ゲノミクス学会連合-The International Association of Environmenal Mutagenesis and Genomics Societies (IAEMGS)
    アジア環境変異原学会連合-Asian Association of Environmental Mutagen Societies (AAEMS)