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Genes & Environment Vol.36 掲載論文日本語標題・要旨

2014年刊行 G&E Vol.36 掲載論文の日本語標題です。
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Vol.36 No.4

Editorial Introduction
Introduction to a Special Issue on the Pig-a gene mutation assay
木本崇文(帝人ファーマ株式会社)

Review
The in vivo Pig-a Gene Mutation Assay
三浦大志郎(帝人ファーマ株式会社)

Regular Article
Pig-a試験およびPIGRET試験によるethyl methanesulfonateのin vivo変異原性の検出
伊東悟、永田真有美、服部千春、高崎渉 (第一三共株式会社)
 Ethyl methanesulfonateのin vivo変異原性をPig-a試験とPIGRET試験で比較検討した。その結果、Pig-a試験では、統計学的に有意なPig-a遺伝子突然変異頻度の増加が投与2及び4週目に、PIGRET試験では投与1及び2週目に見られた。これらの結果は、PIGRET試験が解析対象細胞を赤血球から網状赤血球にすることで、Pig-a遺伝子突然変異体をPig-a試験よりもより早く検出できることを示している。

Regular Article
ラットでのpig-a遺伝子突然変異試験を用いた造血細胞における4,4'-Methylenedianilineの遺伝子突然変異評価
真田尚和、大隅友香、岡本美奈子、中村俊之 (科研製薬株式会社)
 血球及び網状赤血球を標的として、肝発がん性物質である4,4'-Methylenedianiline (MDA)の遺伝子突然変異を、単回投与及び28日間反復投与後のRBCs pig-a assay及びPIGRET assayにて検出した。その結果、単回投与では遺伝子突然変異頻度の変化は認められなかったが、反復投与では、RBCs pig-a assayにおいて投与14及び28日目、PIGRET assayにおいて投与14日目に突然変異頻度の有意な増加が用量依存的に認められ、それぞれ投与14日目及び7日目に、最も高い突然変異頻度の増加を示した。

Regular Article
メチルメタンスルホン酸によるラット末梢血におけるPig-a遺伝子突然変異および小核の誘導
武藤重治、山田勉也、加藤竜也、岩瀬裕美子、宇野芳文 (田辺三菱製薬株式会社)
 メチルメタンスルホン酸(methyl methanesulfonate; MMS)の突然変異誘発性につき、赤血球に対する抗体を用いたPig-aアッセイを実施した。28日試験ではSDラットにMMSを7.5, 15, 30 mg/kg/dayの用量で28日間反復経口投与した。単回投与試験では、50, 100, 200 mg/kgの用量で単回経口投与した。全赤血球および幼若赤血球を対象としたPig-a変異体解析(RBC Pig-aアッセイおよびPIGRETアッセイ)および末梢血における小核解析を実施した。その結果、28日間反復投与試験では、PIGRETアッセイでのみ30 mg/kg/dayの用量でPig-a変異体頻度(Pig-a MF)の継時的な増加が認められDay 29で最大となった。単回投与試験では200 mg/kgの用量でPIGRETアッセイではDay 8から29まで定常状態のPig-a MFの増加が、RBC Pig-aアッセイでは、Day 29でのみPig-a MFの増加が認められた。以上の結果より、PIGRETアッセイは,反復投与では突然変異が蓄積するため、反復投与毒性試験への組み込みに有用であり、単回投与下では迅速に突然変異を検出できるため短期試験として有用であることが示唆された。

Regular Article
シクロフォスファミド単回及び28日反復投与下におけるラットPig-aアッセイの有用性検討:PIGRET法は末梢血Pig-aアッセイに比べて早期に変異の増加を検出できる手法である
  木本崇文、千藏さつき、岡田久美子、小林小梅、板野泰弘、三浦大志郎、笠原義典 (帝人ファーマ株式会社)
 新規突然変異マーカーとして注目されるPig-a遺伝子を利用したin vivo突然変異試験法(Pig-aアッセイ)の反復投与毒性試験での活用可能性を検討した。SDラット(雄、7週齢)にCyclophosphamide(CP)を単回又は28日間反復経口投与し、経時的に採取した血液にて末梢血Pig-aアッセイ及び網状赤血球に特化したPIGRET法によるPig-a変異頻度データを取得した。その結果、CP単回及び28日間反復投与下でのPig-a変異頻度の増加を検出できた。また、PIGRET法はより早期に変異頻度の増加が認められた。Pig-aアッセイは他の毒性試験(単回投与毒性試験、反復投与毒性試験)の中でin vivo突然変異誘発性を同時に評価できる試験系として期待される。

Short Communication
ラットを用いたPig-aアッセイとトランスジェニック突然変異試験の組合せに関する研究
堀端克良、鵜飼明子、本間正充 (国立医薬品食品衛生研究所)
 Pig-a遺伝子in vivo突然変異試験法(Pig-aアッセイ)では、その優れた特性から新規in vivo遺伝毒性試験としての有用性が期待されている。一方、現状では開発段階であり、その精度や基準などの詳細は不明である。よって本研究では、Pig-aアッセイと既存のgpt-deltaトランスジェニック変異試験(gptアッセイ)の組合せ試験を行い、Pig-aアッセイの精度を検証、確認することを主たる研究目的とした。以前に我々はgpt-deltaトランスジェニックマウスを用いて、Pig-aおよびgpt変異頻度はよく相関性を示すことを報告しているが、今回、gpt-deltaトランスジェニックラットを用いてENUを強制経口投与し、投与前、投与後1週、2週および4週目に尾静脈より採血を行い、全赤血球(RBC Pig-a アッセイ)および幼若赤血球(PIGRETアッセイ)を標的としたPig-a変異頻度を測定した。また、4週目には試験個体を屠殺し、gptアッセイにより骨髄および肝臓の遺伝子変異頻度の測定を行った。その結果、ラットにおいてもマウスと同様にPig-aおよびgpt変異頻度はよく相関性を示すことが明らかになった。これにより、今後の更なる検証は必要ではあるが、遺伝子変異試験としてのPig-aアッセイに関する将来的な有用性が提案できると考えられた。

Vol.36 No.3

Meeting Report
Meeting Report: The 42nd Annual Meeting of the Japanese Environmental Mutagen Society
須藤鎮世(就実大)

Short Communication
ヒト強盗説:ヒトは火を利用して大型肉食動物から獲物とねぐらを奪い取り、彼らを絶滅させた
須藤鎮世(就実大)
 無毛変異がヒトを直立させ、直立が未熟な赤子を出産し、産後に脳を大型化する道を開いた。しかし、脳の大型化には栄養が必要である。地球の寒冷化に伴い、250万年前頃サバンナが広がり、野火が頻発した。無毛のヒトは暖を求めて野火に近づき、やがて焼け跡にくすぶる逃遅れた動物の焼死体を発見した。これらは良い匂いがし、美味しいことを知った。これらは美味しいだけでなく、消化し易いのであった。こうして肉食への引金が引かれた。やがてヒトは火を制御する方法を獲得するとともに、獣たちが火を恐れるので、彼らを火で追い払うことができることを知った。従来の説ではヒトはサバンナで狩人となり、集団で動物を倒したというが、脚の速い草食動物を石器を投げるくらいで倒せるとは思えない。まして、牙や爪の鋭いサーベルタイガーなどと競合し、肉食動物の生態系にヒトが割って入り、彼らの生活圏を奪い、絶滅へ追いやったとは到底考えられない。そうではなく、肉食動物が獲物を倒した時、火で彼らを脅し、獲物を奪ったとするのが真相ではないか。また、洞穴などのねぐらから彼らを燻り出し、居住場所も奪ったのだろう。これがヒト強盗説の骨子である。地球寒冷化、サバンナの恒常化、ホモ属の出現、ヒトの脳の大型化、石器の製造、大型肉食動物の絶滅化の開始、料理の開始などがおおよそ250万年前頃に合致することが、強盗説の裏付けとなる。こうして、無毛変異はヒトを火に近づけ、暖を取らせるだけでなく、肉食動物から獲物を奪い、食物を料理し、消化を助けることで、脳に十分な栄養を補給する道を開き、ヒトの進化に大きな役割を果たした。無毛と汗腺の発達についても考察した。

Review
無毛変異仮説:赤子を抱くために直立を促し、産後に脳を大きくすべく未熟の児出産を可能とし、火を利用して肉を入手し、食物を料理することにより、ヒト化の推進した原動力
須藤鎮世(就実大)
 ヒトには二足歩行、実質的無毛、社会・生殖の単位としての家族という3大特徴がある。ひとたび無毛変異が起きたと考えると、これらが同時的、不可分に説明できる。初期人類は樹上で生活していた。ヒト以外の霊長類は子は母親の体毛にしがみつき移動するが、ヒトだけは母親が抱く必要がある。母親の樹上での行動は極端に制限される。父親はエサを運ばないと、母子は餓死してしまう。逆にエサを供給しない雄は子孫を残せなかった。雌は代償として随時、性的に雄を受入れた。性周期に関係の無い性的関係は雌雄の絆を強めた。こうして家族が形成された。サバンナは250万年前の常態化した。ヒトは地上での生活を強いられるようになった。サバンナでは野火が頻発した。無毛のヒトは暖を求めた火に近づき、動物の焼死体を見つける機会に恵まれれ、焼き肉の香気と美味を知った。これに味をしめ、肉食をめざすことになった。火に慣れ、制御できるようになったヒトはやがて、動物が火を嫌い、火で動物を追い払うことが出来ることを学んだ。ヒトは石器を使い、サバンナで狩人となり、肉食をするようになったという従来の説では、俊敏な動物を襲って倒すことは不可能だろう。火を火器として利用し、肉食動物が獲物を倒したところを襲い、強奪するようになった(ヒト強盗説)というのが、真相ではないか。丁度、地球の寒冷化、サバンナの完成、ヒト属の出現と脳の大型化、大型肉食動物の衰退、石器の使用などが、ほぼ250万年前に一致するのが、ヒト強盗説の裏付けとなる。また、洞穴などに棲む獣を燻り出して、かれらの住まいを奪うことで、ヒトが大型肉食動物の多くを絶滅に追いやったと考えらる。

Review
Origin of the Human Family
伊谷原一(京都大)
 あらゆる霊長類の中で、「家族」という社会単位を有するのは人間だけである。今西錦司(1951)は人間家族の成立を考察する上で、1近親婚の禁忌、2外婚制、3近隣関係、4配偶者間の分業という4つの条件を提示した。この4条件をヒトと共通の祖先から進化してきた現生類人猿の諸特徴と比較し。人間だけに特異的で、あらゆる人間社会に普遍的にみられる「家族」という社会単位について、その派生してきた過程を考察する。

Review
A short review on the origin and migrations of modern humans (Homo sapiens)
馬場悠男(国立博物館)

Review
Homo sapiens under neutral evolution
斎藤成也(遺伝研)

Review
医薬品・発癌物質・内在性物質の光遺伝毒性・光変異原性
有元佐賀惠(岡山大)
 DNAによるUVAや可視光吸収は非常に弱いため,内在性あるいは外来の化合物による光増感が光遺伝毒性をもたらすと考えられている。広い範囲の医薬品に光増感による光遺伝毒性・光変異原性が報告されている。また,発癌性物質の活性化に、代謝酵素によらず、光増感経路が報告されている。また、内在性物質のビタミン(リボフラビン)やアミノ酸誘導体(N-ニトロソプロリン)も光遺伝毒性や光変異原性が見出されている。これらについて概説する。

Review
ヒストン修飾変化と光遺伝毒性
伊吹裕子(静岡県大)
 本レビューでは、化学物質によるヒストン修飾変化、なかでもヒストンアセチル化が、紫外線の遺伝毒性を変化させる可能性について議論した。ヒストンのアセチル化は、DNAとヒストンの親和性を低下させるため、クロマチン構造を弛緩させるとされている。そこに紫外線が照射された場合、代表的な損傷であるピリミジンダイマーの形成率や修復率が変化することが予想される。種々の化学物質によりヒストンのアセチル化が誘導されることが既に報告されている。光遺伝毒性について検討する際、それら化学物質によるエピジェネティック変化を考慮する必要があるのかもしれない。

Meeting Report
2013年公開シンポジウム開催報告
戸塚ゆ加里(国立がんセ研)、渡辺徹志(京都薬大)
 平成25年度の日本環境変異原学会公開シンポジウムは「東アジア地域の環境汚染の現状とヒト健康への影響」をテーマに開催いたしました.東アジア地域における環境汚染の現状とそれらがもたらすヒト健康への影響について幅広い角度から問題をとらえ,考えるために、行政、基礎研究、臨床医の方々を含む8名のシンポジストにご講演をお願いしました.その内容について簡単にまとめました。

Regular Article
Air pollution with particulate matter and mutagens: Relevance of Asian dust to mutagenicity of airborne particles in Japan
渡辺徹志(京薬大)ほか

Review
黄砂が喘息に与える影響について
渡部仁成(鳥取大)
 黄砂は様々な大気汚染物質を含んでおりヒトの健康に影響を与えることが東アジアの国々から報告されている。本論文では我々の研究に基づいて黄砂が喘息および気道炎症に与える影響について概説する。我々はこれまでに黄砂が喘息に与える影響について評価するために、喘息患者を対象に電話調査および日誌形式で毎日の呼吸器症状、呼吸機能の記録を実施した。また、黄砂時に採取した大気粉塵がinterleukine-8産生に及ぼす影響についてTHP-1-derived IL-8 reporter cell line (THP-G8) 細胞を用いて評価した。その結果、黄砂時に喘息患者の11%〜22%で呼吸器症状が増悪し、呼吸機能が低下することを明らかにした。しかしながら、その増悪の程度は重篤なものではなかった。一方、アレルギー性鼻炎の合併は黄砂時に喘息が増悪する重要なリスク因子であった。黄砂時に捕集した大気粉塵でTHP-G8細胞を刺激するとinterleukine-8の産生を増加させたが、黄砂発生源の土壌(黄土高原土壌)には同様な作用は見いだせなかった。黄砂時の喘息の増悪は大気粉塵を吸入し気道内のinterleukine-8産生が増加することが原因である可能性が示唆された。

Review
黄砂現象による細菌の長距離移動
山口進康(大阪大)、一條知昭(大阪大)、馬場貴志(鳥取大)、那須正夫(大阪大)
 大気現象による微生物の移動の実態については、いまだ不明な点が多く、その環境や生態系、また健康に対する影響については明らかになっていない。そこで、我々は細菌を「生理活性・遺伝子情報をもつ粒子」として捉え、黄砂表面の細菌を直接可視化するバイオイメージング法や分子微生物生態学的手法により、黄砂が多様な微生物を運んでいることを直接的に証明した。さらに、黄砂とともに長距離移動している細菌の一部は増殖活性を保持していることから、風送ダストは微生物生態系における多様性の維持に貢献していることを示した。

Review
Atmospheric Behaviors of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons in East Asia
早川和一(金沢大)ほか

Review
肺腺がん感受性を規定する遺伝子
白石航也(国立がんセ研)、河野隆志(国立がんセ研)
 肺腺がんは、肺がんの中で高頻度に発症する組織型である。個々人の肺がんリスクは、喫煙を中心とした環境要因と遺伝子多型といった遺伝要因によって規定される。肺腺がんを対象とした全ゲノム関連解析により、3、6、15、17番染色体に肺腺がん感受性遺伝子座が同定されているが、これらの感受性遺伝子座の肺がんリスクに対する関連の強さには、人種差がある。本総説では、肺がん感受性遺伝子とその機能的意義について報告する。

Vol.36 No.2

Commentary
国際環境変異ゲノミクス学会連盟(IAEMGS)の過去、現在そして未来の挑戦
能美健彦(国立医薬品食品衛生研)
 2013年11月に国際環境変異ゲノミクス学会連盟(IAEMGS)の会長に選出された。私はこの論文で、IAEMGSの歴史と今後4年間に挑戦すべき課題について記載した。課題とは、第一に遺伝毒性に関する学際的研究を推進することであり、第二には開発途上国の若手研究者が先進国の経験豊富な研究者と交流する機会を増やすことである。これらを達成するためには、第三の課題としてIAEMGSの経済状態を改善することが必要である。ご意見をお寄せください。

Regular Article
umu試験を用いたN-nitroso-N-alkylureasに対する生薬水抽出物の抗変異原性の評価
稲見圭子(東京理大)、高田雅史(共立薬大)、伊藤啓(共立薬大)、石川さと子(慶應大)、望月正隆(東京理大)
 N-ニトロソ化合物は生体内でも生成する発がん物質であり、ヒトがんとの関連が報告されている。本研究では、umu試験を用いて、30種の生薬水抽出物について、N-ニトロソ尿素類に対する抗変異原性を評価した。その結果、17種の生薬水抽出物に抗変異原性があった。そのうちの8種 ケイシ、ケイヒ、トシシ、ケイケットウ、オウバク、カゴソウ、ホコツシ、ゴミシは強い抗変異原性を示し、最も強い活性を発現したのはマメ科のケイケットウであった。ケイケットウ水抽出物の抗変異原性を報告するのは、本論文がはじめてである。また、本研究で用いた他のマメ科植物にもN-ニトロソ尿素類に対する抗変異原性があり、マメ科に含まれるイソフラボン類が抗変異原性に関与している可能性を示した。

Regular Article
Ames試験を用いたN-メチル-N-ニトロソ尿素に対する生薬および食用植物抽出物の抗変異原性のスクリーニング
立崎仁(常磐植物化学研)、楊金緯(常磐植物化学研)、古城由紀子(共立薬大)、峯裕資(東京理大)、石川さと子(慶應大)、望月正隆(東京理大)、稲見圭子(東京理大)
 N-ニトロソ化合物は生体内でも生成する発がん物質であり、ヒトがんとの関連が報告されている。本研究では、Ames試験を用いて、43種の生薬および食用植物から得られた抽出物について、N-ニトロソメチル尿素に対する抗変異原性を評価した。その結果、Glycyrrhiza aspera エタノール抽出物、40% isoflavone aglycone 含有Glycine max 抽出物 (ISOMAX AG40)、およびZingiber officinale エタノール抽出物で、N-ニトロソメチル尿素に対して抗変異原性を示した。

Regular Article
N-ニトロソプロリンと2'-デオキシグアノシンを中性条件下、UVA照射により生じる光反応生成物の同定
有元佐賀惠(岡山大)、町田雅希(岡山大)、佐野嘉容子(岡山大)、青山周平(岡山大)、旭千春(岡山大)、田中範子(岡山大)、岡本敬の介(岡山大)、根岸友恵(岡山大)、木村幸子(兵庫県大)、鈴木利典(就実大)
 先に我々はN-ニトロソプロリン溶液がUVA照射により、直接変異原性物質に変化するとともに、共存するDNAに鎖切断を生じ、反応中に活性酸素ラジカルと生じることを見出した。今回、光反応により生じるDNA傷害を解析するため、まずデオキシグアノシンをモデルとして、中性条件でUVA照射し、反応生成物を解析したところ8-デオキシグアノシンが生成することを明らかとした。

Regular Article
クリセン投与48時間後までのマウス肝臓における遺伝子発現プロファイル
降旗千恵(青山学院大、現国立医薬品食品衛生研)、桜井幹也(青山学院大)、渡辺貴志(青山学院大)、鈴木孝昌(国立医薬品食品衛生研)
 遺伝子傷害性肝がん原物質投与48 h以内における肝臓の遺伝子発現変化を測定するのに、どの時点が有用か決定するために実験をした。典型的な多環芳香族炭化水素のクリセン(100 mg/kg 体重)を1群3匹の9週齢雄B6C3F1マウスに投与し、4,16, 20, 24, 48 h後に肝臓を採取した。個別にcDNAを調製して、DNAマイクロアレイ分析の結果から選んだ50遺伝子について発現をqPCRで定量した。 4 hと48 h後にがんに関連する遺伝子で発現変化する遺伝子数が多いことを示した。

Short Communication
p53の減少はエピソーマルDNAのShort Tract Gene Conversionを抑制する
紙谷浩之(愛媛大)、鈴木哲矢(北海道大) 、原島秀吉(北海道大)
 二本鎖切断は最も重篤なDNA損傷であり、相同組換えが二本鎖切断に対する防御となっている。本研究では、ヒト細胞中におけるp53減少の相同組換えへの影響をプラスミドDNAを用いて調べた。このプラスミドは2コピーの不活性型カナマイシン耐性遺伝子を持っており、相同組換えにより機能のある遺伝子が再構成される。p53をsiRNAによりノックダウンさせた後、直線化したプラスミドDNAを導入したところ、相同組換え頻度が減少した。この結果は、p53は生細胞においてエピソーマルDNAの相同組換えを促進している可能性を示唆する。

Vol.36 No.1

Regular Article
非遺伝毒性肝肥大誘導物質経口投与による肝代謝能への影響:肝肥大誘導物質投与ラットのS9を用いて検出されるMeIQx, BaPならびにNDMAの変異原性の変化
樊星(岡山大学)、布柴達男(国際キリスト教大学)、吉田緑(国立医薬品食品衛生研究所)、西川秋佳(国立医薬品食品衛生研究所)、根本清光(静岡県立大学)、出川雅邦(静岡県立大学)、有元佐賀惠(岡山大学)、岡本敬の介(岡山大学)、高橋栄造(岡山大学)、根岸友惠(岡山大学)
 F344ラットに5種類の非遺伝毒性肝肥大誘導物質を、肝肥大を起こす用量で経口投与し、経時的に摘出した肝臓からS9を調製して、それを用いてエイムス試験を行った。MeIQx, BaP, NDMAの間接変異原物質の変異原性を調べたところ、アセトアミノフェン以外の物質では投与期間に応じて変異原性の上昇が見られ、そのパターンは投与した物質、雌雄によって異なるものであった。変異原性の変化は、多くの場合CYP1Aの酵素活性の変化と対応していた。

Regular Article
ヌクレオチド除去修復と塩基除去修復の修復対象はどの程度の大きさのn-アルキル化塩基か
小田島千尋(八戸工業高等専門学校)、中村隆典(姫路獨協大学)、三浦将典(八戸工業高等専門学校)、山崎香代子(姫路獨協大学)、本多義昭(姫路獨協大学)、菊池康昭(八戸工業高等専門学校)、佐々木有(八戸工業高等専門学校, 姫路獨協大学)
 一般に、ヌクレオチド除去修復(NER)はDNAの二重螺旋に歪みを生じるような嵩高い付加物の除去に、塩基除去修復(BER)はそのような歪みを生じないような小さな付加物の除去に働くとされている。しかしながら、どの程度の大きさのn-アルキル化付加物がBERの修復対象にならないような嵩高いものか、具体的には詳しく知られていない。コメットアッセイの陽性反応が2',3'-dideoxythymidine (ddT)によって増強されることはBERが働いていることということを我々は既に示した。ここで、a-amanitin (AMN)によってコメットアッセイの陽性反応が抑制されることはNERが働いていることを示すことができた。これらを基に、どの程度の大きさのアルキル化付加物がNERの修復対象になるか検討した。そのため、アルキル基の炭素数3〜7のアルキル基を持つアルキル化剤であるアルキルメタンスルホン酸n-propyl methanesulfonate (PMS)、n-butyl methanesulfonate (BMS)、n-pentyl methanesulfonate (PeMS)、n-hexyl methanesulfonate (HMS)、n-hetpyl methanesulfonate (HepMS)を合成し、これらによるコメットアッセイの陽性反応に対するAMNとddTの作用をTK6細胞において検討した。
 PMS、BMS、PeMSに対するコメットアッセイの陽性反応はddTによって陽性反応は増強され、BMS、PeMS、HMS、HepMSに対するコメットアッセイの陽性反応はAMNによって抑制された。 以上の結果からBERは炭素数5以下のn-アルキル化塩基の除去に、NERは炭素数4以上のアルキル化塩基の除去に働いていることが示唆された。

Regular Article
EGFP-MDC1発現ヒト細胞を用いた簡便な遺伝毒性試験
松田俊(京都大学)、松田涼(京都大学)、松田陽子(京都大学)、柳澤信也(京都大学)、井倉正枝(京都大学)、井倉毅(京都大学)、松田知成(京都大学)
 MDC1はg-H2AXと同様にDNA二本鎖切断に応じて核内でfociを形成する。本研究ではEGFP-MDC1安定発現MCF7細胞及びR言語プログラムを用いて簡便な遺伝毒性試験を開発した。本試験法を作用機序の異なる4種の変異原で試験したところ全て陽性であった。さらにAraC/HUとの同時処理により試験の高感度化を行った。本試験法は操作の全自動化が可能なため、化学物質の遺伝毒性スクリーニングへの適用が期待される。